『特捜部Q 自撮りする女たち』あらすじと感想

自撮りする女性 映画・ドラマの原作本

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デンマーク人作家 ユッシ・エーズラ・オールスン。(Jussi Adler Olsen)

彼の大ヒット作「特捜部Q」シリーズ。

『特捜部Q 自撮りする女たち』は2016年に出版。

日本での紹介は2018年でした。

『特捜部Q』シリーズの7作目に当たります。

第一作目「檻の中の女」から一貫して緊迫したミステリーに、特捜部Qのユニークな面々の日常がサイドストーリーとして華を添えてきました。

カールとモーナの恋愛、アサドの奇行と秘密、ローセの傍若無人さと多重人格的言動。

それが、第6作目からトーンが変わり、本作に突入。

長年のファンとしては推理小説の謎と特捜部Qの今後が気になる展開となりました。

今回は『特捜部Q 自撮りする女たち』をご紹介したいと思います。

『特捜部Q 自撮りする女たち』は2023年4月 Kindle Unlimited読み放題で読むことができます。

購入するより1,000近くお得なのでおすすめです。

『特捜部Q 自撮りする女たち』あらすじ

『特捜部Q 自撮りする女たち』登場人物

【本作の主要な登場人物】(メイン・キャラクターは除く)

  • アネ=リーネ・スヴェンスン ソーシャルワーカー
  • デニス(ドリト)・ツィマーマン 失業中の女性
  • ビアギト・ツィマーマン デニスの母親
  • リーモア・ツィマーマン デニスの祖母。
  • ミッシェル・ハンスン デニスの失業仲間
  • ジャズミン デニスの失業仲間
  • リーオ・アンドレースン 圧延工場の現場監督
  • アーネ・クヌスン ローセの父親

『特捜部Q 自撮りする女たち』あらすじ

 「吊された少女」事件から2年後。

まだまだ続く、警察改革の波。

コペンハーゲン警察は経費を削減するため、成果をあげていない部署の閉鎖を検討します。

やり玉にあがったのが特捜部Q。

ですが、カール・マークが計算したところ特捜部Qの検挙率は65%。

コペンハーゲン警察の部署としてはかなりの好成績のはずです。

上司によると特捜部Qから上がった資料をまとめると検挙率が15%となっているとか。

カールは頭に血が上り、秘書課のリズに八つ当たりしてしまいます。

システムになんらかの手違いがあったようです。

 ボーンホルム島事件から立ち直っていないローセは、書類をまとめることさえできません。

「吊された少女」事件で自殺したハーバーザートがローセの亡き父親にそっくりだったため。

心の深い部分に傷を負った様子です。

事件から2年経つ今でも、ローセはボーンホルム島事件の報告書を放置したまま。

しびれを切らしたカールは、ローセにすぐに仕上げるように申し付けます。

普段通り、カールに悪態をついたローセでしたが、彼女の精神状態は最悪です。

短期記憶の欠落、仕事に対する熱意の喪失、無価値感、それらがローセの心をむしばみます。

日常生活さえままなりません。

彼女は強迫観念から自分の住むアパートの壁、冷蔵庫の中に至るまで文字を書き続けます…。

切羽詰まったローセはまた妹の一人に扮し、カールにSOSを出しますが、

普段の奇行が災いして見過ごされることに―。

街では67歳の老女リーモア・ツィマーマン撲殺事件が発生。

この事件と12年前の女性教員殺人事件との間には類似点がある―。

新聞を読み、そう思った元殺人捜査課課長ヤコプスンがカールに電話をかけてきます。

現在進行中の事件は殺人捜査課の仕事。

ですが、カールはヤコプスンの勘を信じてまた首をつっこむことになります。

 一方、ソーシャルワーカーのアネ=リーネ・スヴェンスンは憂鬱な毎日を送っていました。

再就職する気のない失業者たちとの面会に神経をすり減らす日々。

謙虚な求職者の中に混ざる、着飾った若い女性たち。

彼女たちは不平不満ばかりを訴え、アネ=リース・スヴェンスンが提案した就職先を考えることさえしないのです。

特にアネ=リーネの目に余るのががミッシェル・ハンスン、デニス・ツィマーマン、ジャズミン。

ミッシェルは無知ゆえに社会的詐欺を働き、再就職の意欲がゼロ。

デニスは生活保護を受けながらパパ活している派手な女性。

ジャズミンは計画的に妊娠・出産を繰り返し、体調不良を訴えて生活保護を受ける生活を何年も続けています。

アネ=リースから見ると「社会福祉から甘い汁を吸っている」我慢ならない存在です。

アネ=リースはある時、胸にしこりがあることが分かり、手術と治療を受けることになります。

死に直面したアネ=リーネ。

真面目に生きてきた自分がこんな目に合うなんて間違っている―。

そう思ったアネ=リーネ・スヴェンスンは、彼女が「福祉制度にたかって生きている」と

判断した失業者たちの抹殺を計画します。

自動車を盗んで、憎む相手をひき逃げ―。

アネ=リースはさっそく、行動を開始しますが…。

老女撲殺事件、連続ひき逃げ事件、ローセ誘拐事件と複数の事件が絡み合う本作。

事件解決と、心身ともに危機に瀕したローセ救出に奔走する特捜部Qの面々。

彼らの活躍と結束に胸が熱くなります。

購入するよりお得です

『特捜部Q 自撮りする女たち』感想

プロローグは1995年11月。

ドイツ系の家族の話から始まります。

少女ドリトは大人たちの話し合い中、ひとりで遊んでいます。

彼女の父親は口論の末、出て行った様子です。

家庭の不和、その原因らしきドリトの祖父。

祖父は第二次世界大戦時、ドイツの軍人でした。

この少女が改名し生活保護を受けているデニスになるのですが、祖父の話が意外な展開を見せるのがストーリーテラーらしい手腕です。

今回の大きなテーマは社会福祉の問題。

日本でも生活保護の不正受給はよく話題になりますよね。

デンマークでも状況は同じ。

特に福祉が充実した北欧では大きな社会問題になるようです。

本書に出てくるデニスやミッシェルのような例は極端でしょう。

ですが、悪目立ちする者の存在で正当な受給者が困るのは世の常。

このテーマがローセの父親事故死事件にも関わってきます。

1990年代後半、鋼の腐食性と強度を高めるために添加されるマンガンが健康被害を起こすことがわかりました。

圧延工場ではマンガン中毒患者に対する補償金が支払われることになります。

同じ圧延工場で働いていた従業員に補償金が出た。

すると聞きつけた別の従業員がマンガンに触れていないにも関わらず不調を訴えて金をせしめようと画策する―。

こうした人間のひとりがローセの父親 アーネ・クヌスンだったわけです。

職業病は保証されるべきですが、便乗行為はほめられたものではありません。

もともと、人望がなかったアーネ・クヌスンは自分の行いで墓穴を掘ることとなります。

一貫して社会問題を扱ってきた作者らしい題材ですね。

ユッシ・エーズラ・オールスンの眼は公平で、「自分勝手」と言う点では私刑する側・される側は

同じ穴のムジナだととらえているのが分かります。

死を目前にした人間が「社会悪」の抹殺をもくろむのはアンソニー・バークリーの『試行錯誤』みたいですね。

展開は違いますが。

今も昔も人間の考えることに大きな違いはないのかもしれません。

アネ=リーネが「死」を意識した後、持ち前の計画性と几帳面さを悪事に発揮する様子がピカレスクロマンを思わせてちょっとおもしろかったです。

(できればその行動力をいい方面に向けてもらいたいですが)

特捜部Qシリーズを通してみても、気がめいるキャラクターがたくさん出てくる『自撮りする女たち』。

タイトルの由来は自分たちの現状を顧みず、スマホで自撮りばかりしているデニスたちを指しています。

老女撲殺事件・12年前の女性教員殺害事件、アネ=リースが起こす連続ひき逃げ事件、どれも読者の興味を最後までつかんで離しません。

ですが、シリーズファン一番の関心事は「カールとアサドはローセを救うことができるのか?」だったと思います。

ローセの状態が、「助けて終わり」の予定調和を相容れないほどひどいものだったのでなおさらです。

ストーリーの後半、ローセの父親 アーネ・クヌスンが圧延工場で「事故死」した事件の真相が明らかになります。

ローセを苦しめてきた事件の真相。

このくだりは涙なしには読めません。

本作のローセのような状況に陥った人が社会復帰ができるのか?

ファンとしては気が気ではありませんね。

管理人は続きが気になってすぐにシリーズ最新刊『特捜部Q アサドの祈り』を買ってしまいました。

最新刊が出版されているタイミングで読めたことを感謝したくなりましたね。

今回、明らかになったローセの過去は悲惨なものでした。

ローセは4人姉妹の長女。

家族の中でひとりだけ、父親から虐待を受けていたローセ。

それでも、母親や妹たちを恨まず、自分と戦ってきた彼女。

ユッシ・エーズラ・オールスンの描く女性たちは本当に強いですね。

特捜部Qシリーズは第10作まで刊行が予定されていますが、ローセの幸せを願ってやみません。

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