江戸川乱歩 おすすめの作品と楽しみ方【日本】【推理小説】

ミステリー

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日本の推理小説界に大きな足跡を残す江戸川乱歩。

(1894〜1965)

三重県出身。

日本初の専業推理小説作家で、のちに評論を発表。

探偵作家クラブ(現在の日本推理作家協会)設立、ミステリー雑誌『宝石』の編集など日本ミステリーの育成に尽力しました。

本名は平井太郎。

ペンネームの「江戸川乱歩」はアメリカの詩人で推理小説の父とされるエドガー・アラン・ポーにちなんだもの。

江戸川乱歩の小説を読んだことがなくても「明智小五郎」「少年探偵団」の名前を聞いたことがあるのではないでしょうか?

ちょろ
ちょろ

金田一耕助とならぶ日本の有名な名探偵ですね!

今回はそんな江戸川乱歩のおすすめ作品と楽しみ方をご紹介します。

江戸川乱歩 初期作品は理知的。まずは『江戸川乱歩傑作選』

40代後半より上の日本人には江戸川乱歩というと「少年探偵団」「怪人二十面相」などの子供向け作品か、通俗的な怪奇小説が思い浮かぶはず。

1929年以後、エロ・グロ・ナンセンスの風潮の中、乱歩の一部作品が熱狂的に迎えられたためです。

ですが、初期の作品は非常に論理的な本格推理小説。

どれを読んでもはずれがありません。

各社から傑作集が出ていますが、初心者にはこちらがおすすめ。

収録作品は『二銭銅貨』『二廃人』『D坂の殺人事件』『心理試験』『赤い部屋』『屋根裏の散歩者』

『人間椅子』『鏡地獄』『芋虫』の9編。

一冊で江戸川乱歩 初期の代表作が全て読めるところがポイント高いです。

いずれ劣らぬ傑作ぞろいですね。

映像化された作品が多数収録されています。

2010年映画化されて寺島しのぶがベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞した『キャタピラー』の原作が『芋虫』。

『D坂の殺人事件』は明智小五郎初登場の記念碑的作品です。

明智小五郎というとダンディな天地茂のイメージが強いですが、初出時は髪はぼさぼさでだらしない服装。

どちらかというと金田一耕助みたいなのがおもしろいですね。

当時の風俗がおもしろく、アイスコーヒーはこの時期から喫茶店に出ていたんだなと驚きました。

『心理試験』はドストエフスキーの『罪と罰』に出てくる心理トリックを使った短編。

江戸川乱歩の教養が垣間見られる作品です。

『屋根裏の散歩者』は奇想天外な作品。

奇抜なアイディアに目が行きがちですが、発表当時の住宅事情を知ることが出来るユニークな逸品です。

『二銭銅貨』『二廃人』はトリッキーな作品。

ぜひ、前知識なしで読んでいただきたいですね。

『赤い部屋』はある秘密クラブに訪れた男の告白から始まります。

退屈しきった男が始めた「蓋然性」による殺人。

この着想は谷崎潤一郎『途上』(1920)という先行作品があります。

ですが、さすがは江戸川乱歩。

専業の推理小説作家ならではのひねりと落ちが利いています。

ちょろ
ちょろ

谷崎潤一郎は日本ミステリー中興の祖と言われています。面白い作品がたくさんありますよ。

いずれも日本の推理小説のレベルを一気に上げた名作ぞろい。

江戸川乱歩は作家デビュー前に古本屋など10以上の職業についていた過去があるんです。

そうした経験が随所に活かされていてストーリーに説得力を持たせています。

もず
もず

ミステリーの大家には様々な職歴を持つ人が多いです。

海外だとクリスチアナ・ブランドなど。

江戸川乱歩の様々な顔を知る!『江戸川乱歩作品集・107作品』

 『江戸川乱歩傑作選』を読んではまった人には次にこの本を読んでいただきたいです。

『江戸川乱歩作品集107作品・原作図表33枚つき』。

電子書籍ならではのコストパフォーマンス。

kindle版は¥200

江戸川乱歩は着想の妙で知られる作家。

ですが、実は翻案物も多いんです。

『江戸川乱歩傑作選』に収録されていないものでも読み応えのある小説はたくさんあります。

『一枚の切符』はコナン・ドイルのシャーロック・ホームズ物の一遍に同様の話がありますね。

謎のひねり方、日本に移し替えてもおかしくない設定に作り替える、その技が見事。

トリックは既存のものでも、使い方次第でオリジナリティあふれる作品になるというお手本のような作品。

もず
もず

今でもミステリー漫画やドラマに使われるトリックです。

軽い短編も秀逸で『算盤が恋を語る話』など、職場恋愛の喜悲劇をさらっとブラックユーモアを交えて描いてあり、印象深いです。

乱歩作品は幻想的と言われることが多いですが、実は社会の趨勢(すうせい)をとらえたものも多いんですよね。

『算盤…』は女性の社会進出が始まったころの作品。

時事ネタを加えつつ、独自の世界をさらっと描く職人技がひかります。

ちょろ
ちょろ

乱歩は引っ込み思案で考え込むキャラクターを描くのが得意。

江戸川乱歩 集大成的な作品『陰獣』

乱歩の中編小説『陰獣』。

1928年 雑誌『新青年』に3回に分けて掲載されました。

(上記 『江戸川乱歩作品集・107作品・原作図表33枚つき』に収録)

前作からブランクがあったこと、乱歩自身がモデルとなった作家が登場することから注目を集めました。

結果、高い評価を得ています。

【『陰獣』のあらすじ】

 論理的・現実的な推理小説を発表している作家の寒川。

博物館で小山田静子という女性と知り合います。

寒川のファンだという静子。

夫は実業家、裕福な家庭の奥様です。

丸髷の着物姿。

青白い肌、線が細く長いまつげを持つ上品な美女。

寒川と静子は文通する間柄になります。

ある日、静子は寒川に相談を持ちかけます。

「同じ推理小説家の大江春泥(おおえしゅんでい)の居所を知りませんか」

というのも、静子は大江春泥(本名;平田一郎)に脅迫されていたのです。

大江春泥は静子が女学生時代に交際していた男性。

猟奇的で犯罪心理を追求する作風同様、とても執念深い性格で自分を捨てた静子に復讐すると脅していたのです。

もともと大江春泥のスタンスとは対極にある寒川。

雑誌上で議論を戦わせたことはありますが、顔も住所も知りません。

寒川は美しい静子を救うべく大江の身辺を調査し始めますが、五里霧中。

出版社に尋ねればなんとかなると思っていたのに…。

厭世家・人嫌いの大江春泥は住居を転々と変え、原稿の受け渡しも本人は出てこないという徹底ぶり。

不気味な男の影におびえる静子。

ある日、川で静子の夫である小山田六郎の溺死体が発見されます。

犯人は大江春泥か?

事態は二転三転し、驚愕のラストを迎えます―。

【『陰獣』のみどころ】

 加虐・被虐趣味などが出てくるため、陰惨なイメージが持たれ乱歩=「エロ・グロ・ナンセンス」という印象を強めたきらいがあります。

が、非常によくできた推理小説。

多くの人に、先入観にとらわれずに読んでいただきたい一冊。

何度か映像化されています。

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ちょろ
ちょろ

管理人は三田村邦彦・古手川祐子版を観ました!

もず
もず

ビアズリーのサロメを効果的に使ったおもしろい演出をしていたよね。

前述した『恐ろしき錯誤』もそうなのですが、結末を明確にしないリドル・ストーリー。

しかも、どちらともとれるよう見事に設計されているところに舌を巻きますね。

明智小五郎 長編の代表作『魔術師』

1930〜1931年『講談倶楽部』にて連載。

(上記 『江戸川乱歩作品集・107作品・原作図表33枚つき』に収録)

江戸川乱歩が生み出した「素人探偵」明智小五郎を主役にした作品です。

『蜘蛛男』事件を解決して休暇に入った明智小五郎。

中央線のS駅で下車し、湖畔のホテルに逗留します。

ホテルでは宝石商の令嬢 玉村妙子という美女と知り合い、仲良くなる明智小五郎。

彼女の家族絡みの事件に巻き込まれることとなります。

きちんと施錠した家に、いつの間にか届いている謎の書置き。

悪ふざけのように見えた一件から事態は深刻な連続殺人に―。

妙齢の美女、神出鬼没の殺人犯、船からの脱出、貴重な宝石、奇術、変装、許されぬ恋、復讐、出生の秘密…。

大衆受けする様子をこれでもかと詰め込んだ作品。

『蜘蛛男』以後、江戸川乱歩の作品は内容が薄く、わかりやすく、通俗的になっていきます。

それでも最後まで読ませるスリルとサスペンスの力はさすが。

荒唐無稽な成り行きに唖然としながらもぐいぐい引き込まれます。

大仰な文章、あおり、読者サービス。

不思議なことに初期作品より「古さ」を感じますが、娯楽作品として楽しめます。

現代の殺伐としたサイコサスペンスと比べると牧歌的ですらありますね。

中でもこの『魔術師』は稚気にあふれた作品。

小五郎の妻 文代が初登場する記念すべき作品です。

もず
もず

高価なダイヤモンドの購入価格が「万」だったり、

自主製作映画が16ミリだったり。時代を感じます。

ちょろ
ちょろ

作中、『D坂の殺人事件から7年近く」という意味の文章が出てきますが、

実際は5年。年齢だけでなく発表年も「数え年」なんですね。

次作『吸血鬼』もこの流れの作品。

大掛かり、煽情的な仕掛けが満載。

決闘シーンから始まり、三角関係、誘拐事件、菊人形、蝋人形、なぞの怪人etc…

荒唐無稽でも、何度読んでも、犯人を知っていても楽しめるのが江戸川乱歩の魅力です。

江戸川乱歩 実はバカミスの父でもある!『目羅博士』

初期作品や『陰獣』など上質なミステリーを世に送った江戸川乱歩。

実はバカミスの先駆者でもあります。

その路線の代表作は『目羅博士』。

もともとのタイトルは『目羅博士の不思議な犯罪』

1931年『文芸倶楽部』4月増刊号に発表。

(上記 『江戸川乱歩作品集・107作品・原作図表33枚つき』に収録)

 推理小説のネタを探しに上野動物園に行った「私」がある男から聞いた不思議な話。

なんでも丸ノ内のビルティングで連続自殺が起きているという―。

その原因を探っていくと目羅という医学博士にたどり着き…。

月の光が人を狂わせるという古い伝承が活かされた味のある小説。

ですが、最初に読んだときから「これはちょっと…」と思いましたね。

まじめに推理小説を期待して読むと、読後、本を壁に投げつけたくなること請け合い。

ただ、この手の作品は楽しみ方がありますからね。

海野十三(うんのじゅうざ)ほどじゃありませんが。

日本推理小説の父はバカミスの父でもあるんだな、と再確認できる作品。

もず
もず

海野十三は日本の推理小説作家。日本SFの祖。早稲田大学理工科出身。

ちょろ
ちょろ

シャーロック・ホームズをもじった帆村荘六のシリーズが有名。

この手の作品は北村薫など実作者にファンが多いです。

江戸川乱歩は文章を楽しむ。読みやすい口語体を追求!

  明治時代から大正時代にかけて行われた言文一致運動。

日本は書き言葉と話し言葉に大きな差がありますが、書き言葉を話し言葉に近づける試みのこと。

ちょろ
ちょろ

日本の書き言葉は平安時代以降、文語体。これを口語体にしようとする動き。

山田美妙が提唱、実践者は二葉亭四迷など。

先人たちの努力によって今に至ります。

江戸川乱歩の作品は非常に読みやすいのが特徴。

実は谷崎潤一郎(1886〜1965)とは8歳、芥川龍之介(1892〜1927)とは2歳違い。

活躍した世界が大衆文学とはいえ、江戸川乱歩のリーダビリティは群を抜いています。

同時代 ほかの探偵小説作家と比較しても読みやすさは格別。

芥川龍之介は原稿を文語体で書く方がすらすら進む、と書いているくらい。

当時の文人の意識がわかりますね。

乱歩は大衆に受け入れられるため、読みやすい文章を追求。

現代人が手に取っても苦も無く読めるのは、実は努力の結晶でもあるんですよ。

江戸川乱歩作品を「都市」で斬る。乱歩を扱った評論が面白い!

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 江戸川乱歩は海外推理小説の紹介や評論も書いています。

そして、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの研究論文などを読んで「推理小説みたいに面白い」と書いていました。

たしかに、ワトソン女性説など昔からあって、作品を丹念に読み込んであって説得力があるんですよね。

そんな乱歩の作品も、評論がおもしろいんですよね。

古い本ですが、今でもその価値は変わらないと思います。

松山厳 『乱歩と東京―1920 都市の貌』。

昔、文学を「都市」という切り口で論ずるというアプローチがありました。

日本で最も有名なのが前田愛『都市空間のなかの文学』など。

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読み物としても面白いですよ。

こうした切り口でみると今まで見えてこなかった側面に光が当てられて有益なことがあります。

松山厳の著作もこの流れ。

1985年 第38回日本推理作家協会賞 評論その他の部門を受賞した力作。

この中で白眉はなんといっても『陰獣』について。

大江春泥が移り住んだ地域を丹念に地図上でマークしていくと同潤会アパートの建った地域と重なるという部分。

読んでいてゾクゾクしました。

松山氏は著作の中で「乱歩はこんな読み方をされることを嫌がったかもしれない」という趣旨のことを書いていらっしゃいました。

が、私はコナン・ドイルについての論文に嬉々としていた乱歩であれば意に介さなかったのでは?と思いますね。

 『乱歩と東京』を読むと推理小説の誕生にまで思いをはせることができます。

エドガー・アラン・ポーが『モルグ街の殺人事件』を発表したのが1841年。

そもそも「都市」が拡大しなければ、推理小説というのは生まれることができません。

農耕生活、周囲はみんな地縁的・血縁的につながっていれば「推理」の入り込む余地があまりありませんから。

起きる事件はエミール・ゾラの『大地』、もしくは津山事件みたいなものになるでしょうし。

推理小説と都市論、そういった意味で相性がよくて当然かと。

そういえば島田荘司も都市論について書いた文章がありましたね。

犯人当てだけでなく、書かれた年代、舞台となった街を想像する―。

こんな楽しみ方が出来るのも江戸川乱歩の魅力だと思います。

未読の方はぜひ、読んでほしいですね。

時間がない方にはこちらをおすすめ♪

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収録作品は以下の通りです。

『江戸川乱歩コレクション』

ナレーター;楠木華子、野口晃、西村健志

再生時間;26時間31分

収録作品;『魔術師』、『人間椅子』、『押絵と旅する男』、『屋根裏の散歩者』、

『パノラマ島奇談』、『人でなしの恋』、『陰獣』、『心理試験』、『白昼夢』

もず
もず

初期作品から最盛期までバランスよく選ばれているね。

ちょろ
ちょろ

『押絵と旅する男』は現代の作家にも影響を与えている名作。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

少しでも参考にしていただけるとうれしいです。

よろしかったらこちらもどうぞ。

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