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デンマークが生んだベストセラー、ユッシ・エーズラ・オールスンの『特捜部Q』シリーズ。
現在、第5作まで映画化されている世界的な人気ミステリーです。
その第9弾が『特捜部Q カールの罪状』。
原題は「NATRIUM CHLORID」
『特捜部Q アサドの祈り』から数年後、カールが「ステープル釘打ち事件」の重要参考人に!?
新型コロナウイルスが猛威をふるう中、犯行現場に「塩」を残す正体不明の連続殺人犯に、特捜部Qの面々が挑みます。
行動制限に加え、クリスマス休暇のデンマーク、特捜部のトップは過去の事件で重要参考人―。
四面楚歌(しめんそか)の特捜部Qは、犯行を食い止められるのか?が今回のみどころです。
『特捜部Q カールの罪状』あらすじ
2020年12月。
モーナと結婚し、かわいい一人娘ルスィーアと3人で暮らすカール・マーク警部補は、相変わらず未解決事件に追われています。
警察本部の地下室は工事中。
コペンハーゲン警察の本部と特捜部Qはシュズハウンのタイルホルメンへ移転しています。
ユニークなメンバーたちが騒ぎ立てる特捜部Qと、重大犯罪課は隣り合わせ。
他部署の捜査員から迷惑がられている様子です。
ある日、新聞に載った老女マイアの自殺。
マイアは悲惨な爆発事故の犠牲者で、幼い息子を亡くしていました。
事件後、何十年経っても心の傷がいえずに死を選んだ老女。
マークス・ヤコプスン課長は事故直後、現場にいたことから深い自責の念を持っていました。
自動車修理工場の爆発事故現場には、食塩の柱が置かれていた―。
似た事件がその後にもあったはず。
単なる事故ではなく、殺人事件だったのでは?
あいまいな手がかりをたよりに特捜部Qは動き出しますが、その陰で「ステープル釘打ち事件」は急展開を迎えていました。
カールが相棒2人を失い、自身も重傷を負ったった「ステープル釘打ち事件」。
その重要参考人としてカールの名前が挙がっていたのです。
いつもは頼りになるアサドは、悲惨な過去と厳しい現実に圧迫される家族のケアに奔走。
まさに八方ふさがりの中、狂信的な連続殺人犯に向き合いますが…。
ひとことで言うと「徹夜本」。
ページを繰る手が止まらず、結末まで一気読み必至です。
『特捜部Q カールの罪状』感想
『特捜部Q カールの罪状』についておおまかな感想
特捜部Qシリーズが誕生したのは2007年、日本に紹介されたのは2011年。
16年間続いているんですね。
時の流れをしっかり反映させるユッシ・エーズラ・オールスンは、第1作で「端正」と表現していた主人公カールを、髪の薄くなった初老の男性として描いています。
リアルですね。
カールには継子イェスパがいましたが、実子を持つのははじめての経験。
ルスィーアがかわいくて仕方がない様子が行間から伝わってきて、長年のファンはほっこりしますね。
『特捜部Q 吊された少女』『特捜部Q 自撮りする女たち』で心身ともに大打撃をこうむったローセがすっかり元通りになっているのもほほえましいです。
舌鋒鋭く、上司に悪態をつくローセは、『キジ殺し』で初登場した時のことを思い出させます。
そんなほのぼの要素を楽しめるのも前半だけ。
『特捜部Q カールの罪状』後半でカールと特捜部Qのメンバーに、シリーズ最悪の試練が与えられます。
コロナ禍のロックダウンで情報収集はままならず、電話さえつながらない。
加えてクリスマス休暇に突入。
そして、カールの指名手配。
最悪です。
これが月並みなシリーズものなら予定調和で最後は大団円だよね〜と構えていられるのですが、
相手はギリギリのラインを攻めてくるユッシ・エーズラ・オールスン。
気が抜けません。
以下、ちょっとだけネタバレがあります。
未読の方・前知識なしで読みたい方はご注意ください。
「食塩」の謎について思うこと
今回の狂信的な連続殺人事件の謎はとてもおもしろいのですが、ちょっと気になる点があります。
私は『特捜部Q カールの罪状』をAmazonで購入した時、あらすじをさっと読んで、「食塩の柱って言ったら聖書に出てきたあれだよな」と思い至りました。
はい、アジア人でもすぐ分かりますね。
この謎に、小説の途中60%くらいまで気が付かないキリスト教圏の人々っているのでしょうか?
しかも、旧約聖書の中に出てくる話なのでイスラム教徒のアサドも(旧約という分け方はしませんが)読んでいるはず。
「創世記」はかなりメジャーです。
フランスの文豪 プルースト『失われた時を求めて』は聖書のこの部分を第4篇のタイトルにしています。
実際に小説の後半で、アサドもロトの妻の話を知っていたことが判明します。
気づくのが遅すぎませんかね???
ものすごくおもしろかっただけに、ここはひっかかりました。
原題の「NATRIUM CHLORID」は塩化ナトリウム。
タイトルにするくらいなので、ユッシ・エーズラ・オールスンには思い入れが深いと推測できます。
まあ、アサドは家族の心配で心ここにあらずだった、という設定でしょうか。
この箇所は欧米では相当、つっこまれたのでは?と思いました。
『特捜部Q』シリーズ 繰り返されるテーマ 「私的制裁」の是非
『特捜部Q』シリーズは13年間、駄作なし・中だるみなしに続いてきた北欧ミステリーの傑作。
警察小説として扱われることもありますね。
アサドやローセ、ゴードンのユーモラスなかけ合い、手に汗握るサスペンス要素など魅力はつきません。
このシリーズを第1作目から読んでいると繰り返されるテーマに気づきます。
「私的制裁」です。
第1作『檻の中の女』、第2作『キジ殺し』、第4作『カルテ64』に顕著ですね。
シリーズの前半では、やや制裁を加える側に同情的だったユッシ・エーズラ・オールスン。
巻を重ねるごとに様相が変わってきました。
『自撮りする女たち』では裁く側・裁かれる側、どちらも同等に問題がありましたし、今回は制裁を加える側が狂信者・精神異常者として描かれています。
このあたり、作者の心境の変化が興味深い。
「人が人を裁く」ことの危険性、恐ろしさ、誤謬。
深く考えさせられる主題です。
さて、特捜部Qシリーズもカウントダウンが始まりました。
次が最終巻。
果たして、「ステープル釘打ち事件」は解決するのか?
特捜部Qは存続するのか?
カールとアサド、それぞれの家族はどうなる?
ハーディの上半身は動くようになるのか?
気になって仕方ありません。
著者は現在、執筆中だそうですが、世界同時翻訳・発売して欲しいですね。
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▼特捜部Q第1作〜第8作のあらすじはこちら。
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