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2017年に発表された櫛木理宇の『死刑にいたる病』。
もとは2015年7月に刊行された『チェインドッグ』で、2017年の文庫化にともないタイトルが変更されました。
ティーンエイジャーを狙った、戦後最大級の連続殺人鬼 榛村大和(はいむら やまと)から手紙をもらった大学生 筧井 雅也(かけい まさや)の身に降りかかる恐怖を描いたサスペンス長編です。
2022年5月に白石和彌監督によって映画化。
主演は阿部サダヲ、岡田健史。
阿部サダヲの熱演が話題になりましたね。
現在、Amazon Prime Videoでレンタル視聴が可能。(48時間 500円)
今回は『死刑にいたる病』のあらすじと感想、原作と映画の違いについて語りたいと思います。
『死刑にいたる病』のあらすじと感想
『死刑にいたる病』のあらすじ
中学生までは優等生だった筧井雅也。
今はFラン大の法学部に通い、鬱屈した生活を送っています。
周囲になじまず、サークルにも所属していない雅也は大学でも浮いた存在。
小中学校の同級生 加納灯里(かのう あかり)が話しかけてくるのもうとましい。
そんな時、一人暮らしのアパートに届いた一通の封書が彼の学生生活を一転させます。
それは世間を震撼させた殺人鬼 榛村大和からのものだったのです―。
中学時代、榛村が経営するベーカリー「ロシェル」に通い、かわいがってもらっていた雅也。
榛村は雅也に「立件された9件の殺人事件のうち、最後の1件は冤罪。真実を突き止めてほしい」と懇願するのでした。
雅也はままならない現実を忘れるため、事件の調査にのめりこんでいきます―。
『死刑にいたる病』の感想
連続殺人鬼が「この1件だけは冤罪」と訴える設定は櫛木理宇の代表作『ホーンテッド・キャンパス きみと惑いと菜の花と』の1編にもあります。
好きなんでしょうか。
確かにちょっと興味を引かれる謎ですね。
『殺人依存症』(2020年)にも見られるように連続殺人犯の内面を描くことに心血を注ぐ櫛木理宇。
その分野の代表作だと思います。
連続殺人犯の心にある深淵に、引きずり込まれる人間の心情をリアルにつづってあり、とても興味深く読みました。
作中、コリン・ウィルソンの『殺人百科』が出てくるのは懐かしいですね。
作者の櫛木理宇は、管理人と1歳違い。
コリン・ウィルソンのハードカバーは私も持っていたな、と思い出しました。
1980年代後半から1990年代初めにかけて、コリン・ウィルソンのハードカバーがたくさん出版されていたんですよ。
その多くが早々に絶版になってしまいましたが。
犯人や事件についてだけでなく、犯罪捜査の方法も詳しく載っていた本なので惜しいですね。
この作品は『FBI心理分析官』に出てくるニーチェの言葉「深淵を除くとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」にインスパイアされたのではないでしょうか。
訓練されたFBIの心理分析官ですら、連続殺人犯に接見していると悪夢に襲われたり、原因不明の体重減少が起きたり、殺人犯に心酔したりするものが出てくるらしいです。
普通の大学生が翻弄されるのも当然だと思います。
個人的に、雅也が榛村に会いに行くたびに人格に変化が現れるところが現実味を帯びていて印象的でした。
元のタイトル『チェーンドッグ』とは
元のタイトル『チェーンドッグ』は鎖につながれた犬、の意でしょうか。
榛村を心から追い出すことができない金山、雅也を表しているのでしょう。
『死刑にいたる病』よりも内容に則したタイトルだと思います。
改題されて内容が分かりにくくなるのはよくあることで、レイモン・ラディゲの『肉体の悪魔』がよい例。
元は「魔に憑かれて」というタイトルでした。
思春期特有のエゴ、独占欲で恋人を死の淵に追いやってしまう少年の心を端的に表していますね。
現在の題名は衝撃的で、商業的にはこちらがいいのだろうな、と思いますね。
(内容とのギャップに首をひねる人もいるようですが)
映画版『死刑にいたる病』の感想
2022年5月に公開された映画版『死刑にいたる病』。
『凶悪』、『日本で一番悪い奴ら』、『彼女がその名を知らない鳥たち』で有名な白石和彌監督がメガホンを取りました。
榛村大和を阿部サダヲ、筧井雅也を岡田健史、雅也の母親を中山美穂が演じています。
原作におおむね忠実ですが、2時間でまとめるためにかなり大幅カットされた部分があります。
それは榛村大和の生い立ち、周囲の人々の証言です。
榛村大和の出生やその生い立ちは複雑なもの。
地方に住む大物政治家の落胤である大和の母親は、知能に問題を抱えていました。
美人だったため、男性関係は絶えず、息子である大和は母親に翻弄されます。
育児放棄、養父による虐待、「養子に出してほしい」と言い続けた少年時代。
母親へのアンビバレントな感情が分からないと、彼の犯行・戦利品についても観客は謎をかかえたままに終わるのでは?と思いました。
知的な障害を持つ者への差別、福祉の問題など深いテーマ。
複数の人間に語らせることで多角的な視点を持ち、作品に深みを与えていたのですが、映画ではカットされていて残念です。
私は阿部サダヲが好きですが、榛村大和の役にふさわしかったのか?はちょっと疑問が残りました。
カウンターの上で組んだ長い指も、ピアニストか芸術家のように美しかった。細い鼻梁、長い睫毛、鳶色の瞳がガラスのように澄んでいる。もし彼の経歴を知らず、かつこんな場所で出会ったのでなかったら、「俳優ばりの、上品な美男子」だと感じたに違いなかった。
櫛木理宇『死刑にいたる病』より
原作から榛村大和の外見にかかわる部分を抜粋しました。
こんな風なんですよ。
もっと適役がいたのでは?
阿部サダヲの殺人犯としての演技も、舞台『人間風車』の方が鬼気迫るものがあったと思います。
この時の阿部サダヲ、迫真の演技。
そのほか、どうしてこんな設定にしたの?と思う部分がけっこうありました。
気になる方はNetflixやAmazon Prime Videoで視聴してみて下さい。
白石監督の阿部サダヲ作品なら『彼女がその名を知らない鳥たち』を推しますね。
あれはすごかった。
阿部サダヲ以外、考えられないキャスティングでした。
いろいろ書きましたが、日本人作家&映画監督が作った連続殺人鬼ものとしてはいい線いっていると思います。
管理人はSNSやYouTubeでこの映画が絶賛されているのを見てしまったのですよ。
つい、ハードルを上げてしまっていました。
櫛木理宇の作品は好きなので、また映画化されたらいいな、と思っています。
お付き合いいただきありがとうございました。
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