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前作『invert 城塚翡翠倒叙集』から1年ちょっと。
相沢沙呼(あいざわ さこ)による霊媒探偵城塚翡翠(れいばいたんてい じょうづかひすい)シリーズの最新刊が発売されました。
販売元は講談社。
表紙イラストは前2作と同じく遠田志帆なのでファンにはうれしいですね。
透明感のある、眼力の強い美少女を描かせると右に出るものがいないイラストレーターさんです。
書店では発売前から予告ポスターが貼られていました。
首を長くして待っていた方が多いのではないでしょうか?
では、さっそくレビューしていきたいと思います。
出たばかりの本なので、ネタバレなし。
何と言っても前作『invert 城塚翡翠倒叙集』で
憎むべき二種類の人間は殺人犯と他人の奇術の種明かしをするユーチューバー、とヒロインに言わせた相沢沙呼。
ここは自粛したいと思います。
*「invert」とは「…を逆さにする・ひっくり返す」という意味。
inverted detective story:倒叙推理小説のこと。
犯人の視点で語られ、その犯行のあらを探偵が探って追い詰めていくストーリー。
有名な例はテレビシリーズ『刑事コロンボ』、『古畑任三郎』など。
日本では松本清張、イギリスではクリスチアナ・ブランドの短編に名作があります。
『invert Ⅱ』 収録作品は前回より少ない2編
『invert Ⅱ』の収録作品は以下の通り。
◆「生者の言伝(せいじゃのことづて)」
◆「覗き窓の四角(ファインダーのしかく)」
「生者の言伝」は「小説現代」2021年9月号に掲載されたもの。
「覗き窓の死角」は書下ろしです。
前作『invert 城塚翡翠倒叙集』は
◆「雲上の晴れ間」
◆「泡沫の審判」
◆「信用ならない目撃者」
の3編だったのでちょっとさびしい印象。
シリーズ第一作『medium 霊媒点綴城塚翡翠』は4編でした。
では、気になる内容を見ていきましょう。
『invert Ⅱ』で描かれるのはヒロイン城塚翡翠の苦悩?
シリーズ一作目『medium 霊媒探偵城塚翡翠』で連続殺人犯と対決したヒロイン城塚翡翠。
怒涛の展開で読者の度肝を抜きました。
第一作の性質上、「シリーズ化は難しいかな…」と思われていましたが趣向を変えて出てきたのが二作目。
『invert 城塚翡翠倒叙集』では倒叙ミステリの形式をとるようになりました。
調査するのは単発的な事件。
赤いフレームのめがねをかけたり、髪の色を変えたり。
または偽名を使って潜入捜査したり。
扱っている事件がすべて殺人事件とは言え、基本的には明るいトーンで進んでいました。
トリックよりもファンサービス、探偵と助手のコミカルなやりとりに重点が置かれている印象。
それが今回は城塚翡翠の過去について、少しずつ明らかになってきます。
アシスタント兼家政婦の千和崎真(ちわさき まこと)との掛け合いは相変わらずコミカルですが、
寝食を共にする彼女でさえ知らない翡翠の一面が徐々に読者の知るところとなっていきます。
「生者の言伝」はクラスメイトの親が所有する別荘に不法侵入した男子中学生のお話。
別荘に無断で入り、滞在していたところを同級生の母親と鉢合わせ。
思わず、包丁で刺してしまった!と慌てているところに嵐で立ち往生した城塚翡翠と千和崎真がたずねてきて…。
やや漫画的に話が進みますが、テーマは重たいです。
それを茶化すことなく、さわやかに描くことができるのはこの作者の持ち味ですね。
相沢沙呼のマツリカシリーズを思わせる、女性の太ももに大騒ぎする男子学生が出てきます。ファンにはおなじみというべきか。
殺人事件が起きた別荘に名探偵がたずねてきて…という設定、推理小説家には魅力的な設定なのでしょうか。
古今東西、いろいろな作家が書いていますよね。
前作を紹介した時にも引き合いに出した、古畑任三郎にもありましたね。
正直なところ、このネタだけで引っ張られるとミステリーファンは食傷気味。
「かなりきつい」のですが、さすがは相沢沙呼。
「生者の言伝」はメタミステリ的な要素があるので、推理小説好きには楽しめる趣向になっています。
といっても、かなりライトなもの。
竹本健治の『ウロボロスの偽書』や東野圭吾『名探偵の掟』、米澤穂信『インシテミル』ほどではないので過度な期待は禁物です。
上記3作品には笑わせていただきました。(笑)管理人は今でも「トリック芸者」のテーマソングが歌えます。
「覗き窓の死角」は、一言でいうなら復讐もの。
愛する者を奪われた犯人が企てる完全犯罪に城塚翡翠が立ち向かう―。
しかも、犯人はプライベートで出会った翡翠の友人。
果たして、仲良くできる同性が少ない城塚翡翠は、友達の犯罪を裁くことができるのか!?
鉄壁なアリバイを崩すことが出来るのか?
この点が見どころです。
タイトルは、翡翠の友人が写真家であるところから来ています。
名探偵が友人、恋人など大切な人と対峙する―。
ミステリーではよくあるパターンなのですが、細かいところに工夫があって楽しめました。
メイントリックは、古今東西の名作で例がありますし、
比較的近年だと島田荘司の某作品が浮かびますが、小道具が利いていて面白かったです。
マジックが好きな作家らしく、ミスリードがうまくてまんまとだまされました。
さわやかな快感。
上手くわざをかけられたような、心地よさがありますね。
これはミステリを読む醍醐味(だいごみ)。
ただ、やはり第一作目から第二作目、今回の作品とどんどん驚きが少なくなってきていますね。
管理人ちょろは米澤穂信の小市民シリーズが好き。
「鍋を使わずにどうやっておいしいココアを作ったのか?」みたいな日常の謎でも論理的であれば楽しめるくち。
初期の北村薫『空飛ぶ馬』なんて何度読み返したか分からないほど。
相沢沙呼だってデビュー作から『medium』までは日常の謎派でした。
好きな作家さんです。
特に大掛かりなトリックを求めているわけではないのですが、
相沢沙呼の今作はややキャラクターに頼りすぎな感はいなめないですね。
もちろん、三作目まで買う読者は間違いなく城塚翡翠や千和崎真のファンだとは思います。
ファンサービスが悪いとは言いません。
ですが、
あざとくかわいい城塚翡翠はユニークなキャラクターだけに
大切に育てていただきたいな、と思いました。
また、仕方ないことかもしれませんが「霊媒探偵」の要素はどんどん薄くなってきています。
当然と言えば当然の流れですが、城塚翡翠がただの頭脳明晰・容姿端麗なお嬢様で不思議ちゃんになるのはおしいですね。
西之園萌絵のような先例がありますからね〜。
私はあの時代のミステリーヒロインなら青木晶の方が断然好きですね。
(女性読者から見て、どちらも「いないよ」と言いたくなるキャラクターですが、晶は存在にリアリティーがあるんですよね。こんな子がいてくれてもいいんじゃない?みたいな。)
城塚翡翠の西之園萌絵化は避けてほしいところです。
なんだかんだいって次回作も絶対に買いますね。(笑)
西之園萌絵(にしのその もえ)
森博嗣 『すべてがFになる』に始まる犀川シリーズに登場するヒロイン。
東大に行けるほど頭脳明晰(犀川を追ってN大学に進学)、容姿端麗なお嬢様。家に執事がいる。「金魚すくい」「かまとと」などの言葉を知らないほど浮世離れしている。特技はテスト。
青木 晶(あおき しょう)
大沢在昌「新宿鮫」シリーズのヒロイン。刑事鮫島の14歳年下の恋人。
ロックバンド フーズハニイのボーカル。スタイル抜群の美女。作詞もできる。普段は乱暴な言葉を使うが、時と場合によってはしっかりと敬語を使う。料理が得意で素材をじっくり選んで思い切りよく購入。栄養バランスは特に考えていない様子。
海外ではキャロル・オコンネル「マロリー」シリーズのヒロインがかなりのチート。
キャシー・マロリーは高身長、ブロンドに緑色の瞳を持つスレンダー美女。刑事だが、天才的なハッカーでもある。
美女すぎるあまり尾行が出来ないほど…って事務職に就けばいいのに…。
こういう、ありえないキャラクターが前面に出過ぎると読者がさめてしまうことがあるので要注意。
『invert Ⅱ 覗き窓の死角』 「生者の言伝」某少年の癖
ところで『生者の言伝』に出てくる少年が嘘をつくときの癖。
わからなかった方がいらっしゃるようなので書いておきます。
それは「えっと」です。
不幸な境遇にあっても、根が素直で嘘をつくことにためらいがある少年。
つい、言いよどんでしまうんですね。
数えたらこの短編で54回出てきました。
城塚翡翠が口にしたものを除くと53回。
翡翠が小説中、ちゃんと説明しているのでネタバレにはならないと思い書いておきます。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
少しでも参考にしていただけるとうれしいです。
よろしかったらこちらもどうぞ。
▼前回の作品レビューはこちら。